廃園跡地

言いたい事を言いたいまま!

憂鬱なハスビーン


  朝比奈あすかの憂鬱なハスビーンを読んだ。

  主人公は高学歴、夫も非の打ち所がない旦那であり弁護士。裕福な家庭、優雅な姑。なのに苛つきが止まらないって感じの1冊。

 薄い本なのに読むのに苦労しちゃった。主人公の凛子が余りにも殺伐して攻撃的だからだ。好かれようとしないを読んだ後に読むには根性が要った。

  凛子は何もかもが気に食わない。姑が嫌なのかと思いきや、それだけでもないし、旦那も悪い人ではない。日本の中で数少ない勝ち組といえる人生や生活なのに、苛立ちが止まらない。どんなシーンでも一人称の凛子のイライラが伝わってきてしまう。人を批判する。それでいて、自分が何なのか、何故苛立つのか、ハッキリした事は後半まで語られない。

  凛子は兎に角完璧主義で恐ろしくプライドが高い事だけは伝わってきた。内心人を見下しまくっているのだけど、それは自分へも返ってきている。自分も同じ立場になってしまったからだ。幾ら勝ち組といっても旦那のように現役でもない。そして信じてきた自分の実力にさえも裏切られ、違う生き方を望むのも難しく、八方ふさがりだったのであろう。

  凛子が失敗したのはひとえにコミュニケーション能力の不足であろう。一人称で語られる凛子はプライドが高くとっつきにくい。全ては堅い殻で自分を守っている、武装しているからだ。幾ら仕事が出来ても、社会は人間社会、コミュニケーションや人間性が大事なのだ。勉強だけが出来ればいいというルールとは違っていた。恐らく凛子にとっての初めての挫折だったのではないかと思う。原因が何だったのか本人がどこまで追求したかは語られていないが。

  勉強が出来て1番を走り続けた凛子にとっての挫折はさぞ堪え難い事であったか。周りに馴染んできても身体に現れてしまい、凛子はすっかり自信をなくしてしまった事が本気で仕事を探す気を起こさせてないのだろうと思う。でもまだ期待している。もう一度バリバリ働きたいと思っているのだろう。

適応障害になったりだとか、初めての挫折で働けなくなったって話だろうな多分。共感できる部分が1ミクロンもないわけだけど。勝ち組なんて日本に数パーセントしかいないのよ。共感出来るワケなかろう。この話が言いたいのは、勉強だけが幸せでありませんよって話よりも、勉強と仕事は別物、大事なのは挫折に耐えられる神経、コミュ力。企業がいつも言ってる事でした。

  読んでいて、これは反抗期もなかったであろう凛子の遅れた反抗期だったのであろうと思った。だからこそ親の前で泣いてスッキリしたのではないかなと思う。後半の凛子の一人称には冒頭の様な読むのも躊躇われる刺々しさはなくなっていた。その変わりようが面白い。凛子のキツイ性格を取り除けば、構成も設定も面白い小説だ。しかし解説を読むまでは細かい内容も、凛子の苛立たしさもぼんやりとしか伝わって来なかった。頭が良い人間なのに、背景を知るのは後半なのでなかなか感情移入し辛く、ただ性格が悪いとか駄々をこねている様にしか見えなかったのである。しかしこれもまた面白いのかもしれない。人間と同じく、架空のキャラクターも、その人物を知るには時間を要するのだから。

  凛子の性格や設定ではなかなか感情移入されにくい物語であると思う。あたしなんかは凛子と正反対で低学歴だし、働きたいとも思ってない。活躍できる場所がある凛子を羨ましく思っているし多くの人間はそうだろう。それでも面白かったのは一人称の変わり具合と、構成が良かったと思う。

  解説は今まで読んだどんな解説よりもわかりやすく、正しく解説であった。凛子がハッキリとどういう感情か述べない為、ぼんやりとした想像の域を出ない部分をもっと想像し易くしてくれた。最もキャラクターが何を思ってるか想像するのが小説の醍醐味ではあるのだが。読み進めはっとさせられ、本編は凛子の感情の混乱だけが描かれているので、理解を深めるには良い解説だった。もう一度読んだら更に楽しめるかもしれないけど、正直もうこれだけプライドの高い凛子に付き合うつもりはない。


憂鬱なハスビーン (講談社文庫)

憂鬱なハスビーン (講談社文庫)