廃園跡地

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祖母の葬儀


  祖母の葬儀が執り行われた。久しぶりに親戚一同が会した。大正生まれで、祖母は9人兄弟の確か4番目だった。お兄さんが海兵で、戦死した。そんな時代だ。祖母の兄弟も葬儀に来てくれた。その他にも祖母の子どもは5人いるし、兎に角親戚が多い。

  確か天台宗と言ったか、祖母の葬儀は天台宗式で執り行われた。宗派が違うだけで微妙に式が違った。でも最も違うのは住職だ。すごく変な人。葬儀の最中に仏教の話が始まったのだけど、話にどんどん入り込んで行って、自身の思い出や哲学的な話になり、演技がかっていき、話がめちゃくちゃ長くなった。食事の時もいて、住職の近くに行けば絶対捕まるしヤバイなと思い離れて座った。聞けば父と同い年。めちゃくちゃ江戸っ子であった。父と同じ臭いがする。案の定意気投合した様であった。しめやかな葬儀で住職がめちゃくちゃパンチ効いていた。正直酔ってるか、薬してるかヤバイ人だと思ってしまった。天台宗…。


  告別式は滞りなく進んだ。涙が止まらなくなったのは、おじさんの挨拶だった。祖母は脳梗塞で入院。麻痺や認知症はあったけど会話は出来た。ある日祖母はそろそろ行かなきゃと言った。光と綺麗な道が見える。ご先祖も迎えに来てる。行かなきゃ。行きたくないけど、邪魔になってしまうから行かなきゃ、と。今までありがとうと言ったらしい。それからすぐ痙攣が起きて、危ない状態になった。一命は取りとめたけど、話せなくなってしまった。それからも細かく痙攣が起きて、段々反応もなくなってしまった。あたしはそれをおじさんから病室で聞かされた時も、泣いてしまった。祖母の様子がよくわかる話だった。優しい、菩薩様の様な祖母は亡くなる間際まで、残される人たちの事を気遣って心配していた。

  火葬する際にお別れとなり、棺に花を入れた。声をかけてあげて下さいと言われたけど、困った。何て声をかけていいか。話したいことはたくさんあったけど、悲しくて言葉になりそうもなかった。ありがとうとお礼だけ伝えた。

  祖母を火葬してる時食事となり、精進料理?を食べた。隣の席は偶然祖母の弟さんで、言葉を交わした。祖母の家は農家で、その他にもスーパーの様に色んな品物を売っていて、忙しかった。子ども達はみんな家の手伝いをしていた。大学なんかは行けなかったけど、世の中で働くのに必要な事は全て学んだと。仕事をしていても、自分から率先してやった方が良いと。弟さんは祖母にそっくりで、やっぱり優しげで、きっと祖母のご両親は素敵な人だったに違いないと思った。もっと祖母の話を聞けば良かった。

  祖母は綺麗な骨になった。父方の祖母は体が弱かった為骨も余り残らなかった。働き者の祖母は体がしっかりしていた為骨も綺麗に残った。その骨も太く綺麗だった。弟さんと箸で祖母の骨を掴み、骨壷へ納めた。骨は軽かった。そうだ、骨は軽い。生きてるうちは重い気がするけど、筋肉なのか水分なのか。でも骨だけになると軽い。軽くて、脆い。祖母は骨壷に納まった。式は終わった。皆は帰って行った。

  20年ぶり位に会った親戚のお姉さん達とも会話したかったしお礼を伝えたかったけど帰ってしまっていた。祖母の為にたくさんの人が集まってくれた事が嬉しかった。葬儀場の人にお礼を言って帰った。

  帰宅して夜家族で居酒屋へ行き、話をした。パンチの効いた住職のこと、おじさんのこと、祖母の話は勿論、亡くなった父方の祖母の事。それはあたしの知らない話で、祖母が良くそのおじさんの名前を出していた事だけは知っていたのだけど

  父方の祖母にもたくさん兄弟がいた。祖母の弟さんは親と折り合いが悪かったのか、妻子を連れて東京へ出てきた。祖母と祖父を頼っての事で、2人は弟を可愛がったらしい。祖父は昔ながらの人で、そんな風に可愛がるイメージがないので驚いたけど、その弟はとても素直な性格だった様だ。働き者だったのだけど、ホステスに入れ込んでしまい、嫁を捨てて子も一緒に連れて駆け落ちしてしまう。今度はホステスと暮らしていたのだけど、ホステスは創価学会に入信してしまい、稼いだ金を全て注ぎ込んでしまった。弟さんは親に連れ戻され、元の嫁さんと復縁したのだけど、暫くして今度は嫁さんから切られてしまう。その後また他の女と暮らしていたけど、目が見えなくなってしまったらしく、音信不通だった。息子は父方の祖母から金を騙し取って、それから来なくなった。祖母も裕福ではなかったのに。知る限りでは祖母が庇うほどの人間には思えない。庇って貰った恩があるのに、逃げ出したのだ。祖母のお葬式の時やっと連絡がついたけど、目が見えないから行けないと断られ、さようならと別れを告げられた。もうかけてくるなよって事だろうけど、本当に恩知らずだ。父は懐いていたらしいけど、どこに魅力があったのだろう。素直でとても良い人らしいのだけど。何が驚きってあたしはそのおじさんも、ホステスの女性も会った事があるらしい。記憶にないけど。どんな人だったのだろう。祖母が最後まで気がかりだった人というのは。

  みんな人生の激動に飲まれている。思わぬ人が運んで来ると父は言うけど。あたしの生活に関わってる人はそんなに居ないから、あたしの人生が激動になる事もなく終わっていくのだろう。それが恥ずかしかった。

  祖母は本当に菩薩様の様な人で怒ってる姿なんか見た事なかった。働き者で、本当に嫌なお客さんが来るとそっと箒を逆さにしたらしいけど、そんな菩薩様の様な祖母から嫌われる客って相当嫌な奴だろうなと思った。野花が大好きで、野花をずっと見ていた姿を思い出す。料理も美味しかった。あたしはどんな会話をしたとか全然覚えてないけど、本当に可愛い人だった事は覚えてる。笑顔が絶えなくて、祖母を嫌う人なんていない。

  人の死は不思議だ。1世紀近く生きてきた祖母は死んだ。人間はいつか死ぬ。それは不思議でも何でもない理なのだけど、生きてきた人間の肉体も全てなくなり、骨壷一つにおさまり、肉体的な存在は失われる。もう会う事も会話する事も出来ない。それが死。でも心の中に生きている。忘れなければ生きている。それも死。生きていたのに、こんなにも簡単に居なくなってしまうのだから不思議だ。

  そしていつか自分の親もいなくなる。自分もいなくなる。不思議な事だ。次親をなくすのは、あたし達の番になる。あたしも悔いなくその日を迎えたい。そんな日来て欲しくないけど、避ける事なんて出来ないから。それなら悔いなく生きるしかない。

  今からでもあたしが祖母に返せる恩は、祖母の事を忘れず、お線香をあげる事。そして祖母の子ども達に対して親切にする事。

  あたしにはずっと余韻がある。祖母の笑顔。きっと絶対天国にいる。あんな素敵な人は。いつかまた会えるかな。