廃園跡地

言いたい事を言いたいまま!

ある晴れた午後皐月の風

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  皐月の晴れやかな週末、妹の婚約者の両家と食事会と相成った。

  その日は暑く、早起きでうちを出た。充分余裕があったし。まぁ髪を巻く時間まではなかったんだけど。この前購入したばかりのワンピにジャケット。靴が少し痛い。

  駅前でアイスコーヒーを飲んでから電車に乗る。目的地で家族と合流。先日妹と少し喧嘩したけど、普通に話した。そのまま皆で汐留のホテルへ向い、そこの20階の個室での食事となった。

  ホテルは高級感があり、外国人も多い。案内された部屋の窓は大きく、狙撃には絶好のポイントだった。ビルの窓を反射して東京タワーの赤いボディが見えた。ぎこちなく座った。相手の家も集合していた。

  相手のご家庭は皆和やかでいらっしゃり、相手の方はとても上品そうな方だった。嗚呼、相手の家は貴族かなんかだと思い、膝が震えた。

  妹と婚約者からぎこちない挨拶があり、緊張で間違えた2人に周囲は温かな笑いが溢れた。お相手の御父様がご挨拶をし、食事が始まった。お相手の御父様は、紳士といった感じで、背が高く細い。御子息似だ。柔らかな声と話し方、佇まいで天皇を想起させる。


  うちは家族全員コミュ障なので最初は静かだった。相手のご家族が気をつかって多くの話題を話し掛けて下さった。あたしは白いスパークリングワインを飲んだ。ワインしかなかったので、ワインは進んだ。和食は美味しいが食べ辛い。小魚の似た奴を箸で一匹一匹つまんで食べた。

  外からのビルの太陽光の反射で、貴族一家はますます輝いて見えたし、顔がさらに反射してるのではと思ったら箸は進まなかった。そうこうしているうちに、皆が次の食事に手をつけ始めたので焦った。あたしだけまだ最初の食事をしていた。

  家族の自己紹介の時は、お相手のご家族を直視出来ず下を向いた。顔が見えないよなぁとか思いながら。しかしお酒もあってか、皆少しずつ歓談していた。父は車の話をしていたし、弟は絵の話をしていた。

  お相手のお姉様があたしにお話かけて下さった。映画の話であった。最近見た映画。咄嗟に酔拳と言ってしまった。皆笑ってたけどまぁ良いや。

  徐々に打ち解けた。食事の時間は長かったけど、父は事前にあんなに嫌がっていたのに、延々と話、お相手の御父様がとうとう相槌するだけになり、完全に立場が逆転していた。

  そうこうしているうちに御開きとなり、結局和食の味はイマイチ分からず仕舞いであった。最後にロビーで挨拶をして、別れた。あたしが考える様な悪魔な一族ではなかった。実に爽やかで一陣の風如き御一家であらせられたのだ。


  汐留から新橋を歩きながら父は、滑る前に御開きになってよかったと笑っていた。父はかなり場を盛り上げてくれていたので、滑ったとは微塵も思えなかったけどあたしは、そうだね滑りまくってたよと笑った。妹も笑ってた。


  東京駅で別れ、あたしは電車に乗った。足が痛かった。ヒールよりも、伸びた爪が隣の足の指に刺さっていた。駅からタクシーで帰った。一言も言わなかったけど、やっぱり疲れてた。陽はまだ高く明るい。陽がのびたのか。

  家族にLINEで御礼を言った。特に母。あたしの愚痴に付き合ってくれたのだから。そしてあんなに愚痴を零してたのが嘘みたいに、爽やかな、暑い日サイダーを飲んだ後みたいな爽やかさだった。

  父はやっぱり異端児で、人と交わるのが好きじゃないし、協調性はゼロなんだけれど、あんなに話したのは、かなり気を使っての事だと分かっていた。顔は赤くとも、余り酔えなかったなぁなんて笑ってた。それも分かってた。母とも父がかなりサービスした点について驚いていた。それがお互い分かってた。

  なんか嬉しかった。うちの家族も直前までバラバラではあったけれど、一つになった気がした。父の事を理解出来ている気がしたし、母の良さを理解出来た。好き勝手な事を言ってもお互いに、信頼が生まれている事も感じられた気がする。嗚呼、家族ってのはこういうもんなんだって、あたしは生まれて、この日が1番それを感じられた様に思えた。両親への感謝。


  帰ったら彼氏が待っててくれて、あたしは服を脱ぐとベッドに倒れた。お腹は一杯だった。彼氏が漬け鮪を作ってくれたけど、食べられなかった。眠いってつもりもなかったけど、眠かったのかもしれない。ストッキングを脱いだ足が解放されたのを喜んでいた。


  ふと彼氏と話してて、涙が出た。色んな思い。もしかしたらここまでの道のりの長さを思って、或いは自分の頑張りに?食事会でも最後は結構話せたし、笑いもとれたから?

  ビルの太陽光の反射の中で柔らかに笑うあの御一家の姿が浮かんだ。光っていた。あたしは、あの御一家の温かさに涙を流していた様だった。不思議な事に、とてつもなく感謝していた。


  何故かは分からない。あたしが結婚するわけではないのに。あの御一家の微笑み。柔らかな春の陽射しみたいだ。花がたくさん咲いてる場所みたいだ。受け入れて貰えた気がした。妹もそんな事言ってた。受け入れて貰えた気がしたから、すごく恩を感じているって。クラシックや、ピアノソナタが似合いそうな上品な御一家。そう確かに、受け入れて貰えた気がした。


  父も珍しく、気を使ったのか良い家族だと評していた。あたしはその美しい光景を思い出し泣いた。


  涙の理由をハッキリとはわからないけど、胸が一杯になっていた。多分それだと思う。そして理由づけするなら、羨ましかったのかもしれない。


  あんな立派なホテルで立派に食事会をやってのけた妹、そして容姿端麗の婚約者。誰もが羨むその2人の姿。あたしでは到底追いつけない。こうして比べる感情に転嫁してしまうのは、いけない事だと思っても


  あたしも、あんな素敵なホテルで、あんな素敵にスマートに食事会をして、彼氏のご両親を紹介したいと、素直に羨ましく思ったのだと思う。そう思いながら同時にそれは永遠に叶わない夢の様に思えた。


  あの2人は同棲もしてないのにトントン拍子で結婚まで漕ぎ着けたのになぁ。あたしは彼氏とかれこれ3年程同棲してる。一体いつこの生活は終わりを向かえるんだろうか。2人の関係に進化は?同棲してなかったら、結婚は更に遠のくとも思える。


  あたしはいつ自分の子どもを持てるんだろうか。結婚出来なかったら…子どもが出来なかったら…それはそれで別のプランを考えないといけない。女の人生設計は甘くない。早めに行動しなければ。


  もし子どもも産めなかったら養子が欲しいし。あたしはいつ着地するんだろうと考えていた。具体的な言葉を彼は言わないから不安なのだ。2人の気持ちが同じでもそれが10年後では遅い。


  お決まりの様にカップルはそれで喧嘩する。彼の呑気な人生設計に、苛立つ。あたし達もその夜はそうだった。彼は彼で呑気にしてるわけではなかったとは思うけど。


  また生まれてしまった、結婚への憧れ。それと同時に手に入らなければ、あたしは早く諦めたいし、早く次の生き方を決めたいのだ。何時迄も期待をさせて、鼻先にニンジンをぶら下げるのはやめて欲しいんだ。結婚出来なければ出来ないで早く諦めたいのだ。決断だけ下して欲しいのだ。母は、優しい彼氏なんだから、きっと考えている、信じてあげなさいと言った。一体いつからこんな信頼勝ち取ったんだろうと思いつつ、嬉しくもあり、母らしい優しいアドバイスだと思った。


勿論あたしも結婚の条件をまだ満たせてないのでそれで滞ってるふしはあるのだけど。もう結婚したいのか、したくないのか、愛してるのか愛してないのか、分からなくなって来た。時々独りなら気楽であろうと思う事も結構ある。でも彼氏と別れたら多分後悔すると思う。別に結婚出来なくてもずっと一緒に居られれば良い。どんな形であれ。結婚なんて形やあり方に過ぎない。あたしはルートだけを早く知ってその先に備えたいのだ。



  兎に角素晴らしい日だった。そしてどっと疲れた。また日常が始まる。休んだ気がしない。